最高裁判所第二小法廷 昭和26年(あ)1295号 判決 1953年10月09日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人岡照太の上告趣意について。
記録によれば、第一審第三回公判期日において検察官が、被告人に対する検察官の第二回供述調書の取調べを請求したのに対し、被告人及び弁護人は、右は、検事の威嚇にもとずく供述調書で証拠能力がないと思考するからこれを証拠とすることに異議があると述べたこと、裁判官は右異議にかかわらずこれにつき証拠調べを施行したこと、第一審判決は右供述調書を有罪事実認定の証拠としたことは明らかであるが、右調書の任意性について、第一審裁判所が特段の証拠調をした形跡のないことも所論のとおりである。
所論はかくのごとき場合、右供述の任意性について検事の立証を待たずして、その供述調書を証拠とすることは憲法三八条、刑訴三一九条に違反するというのであるが、右のごとき供述調書の任意性を被告人が争ったからといって、必ず検察官をして、その供述の任意性について立証せしめなければならないものでなく、裁判所が適当の方法によって、調査の結果その任意性について心証を得た以上これを証拠とすることは妨げないのであり、これが調査の方法についても格別の制限はなく、また、その調査の事実を必ず調書に記載しなければならないものではない。かつ、当該供述調書における供述者の署名、捺印のみならずその記載内容すなわちその供述調書にあらわれた供述の内容それ自体もまたこれが調査の一資料たるを失わないものと云わなければならない。
原判決の説示するところも、要するに同供述調書の内容を検討しても何ら任意性を疑わしめるかどもなく、その他本件記録並に第一審において取調べた証拠に現われた事実関係からみても、右供述の任意性に疑念を挟むような点のないことを指摘し、第一審は右任意性について、適当な調査の結果、右供述調書に証拠能力ありとしてこれを証拠に採ったのであって、特に検察官をして此点について立証せしめなかったからといって所論のような違法ありとすることはできないとの判断を示したものであって、右の判断を以て所論のように違法であるとすることのできないことは勿論である。(昭和二二年(れ)第二五三号昭和二三年七月一四日大法廷判決参照)
また記録を精査しても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
よって同四〇八条により主文のとおり判決する。
この判決は、裁判官全員一致の意見である。
(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)